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III号戦車・火力強化の足跡

精強ドイツ装甲部隊を支えた傑作戦車③

■「T34ショック」「KVショック」

 ソ連軍が繰り出した「攻・防・走」いずれも秀でたT34と、重装甲を誇るKVという2種の優れた戦車と対戦し、III号戦車は圧倒的に不利な戦いを強いられたのだ。この出来事は「T34ショック」「KVショック」と称された(2018年06月06日配信:「習作」T-32から「傑作」T-34へ:参照)。当時、世界一ともいわれたドイツ戦車兵の練度の高さのおかげで、かろうじて乗車の性能的劣勢を経験値で補って戦うことができたものの、完全な技術的非常事態である。

 そこで、先に撃たれればこちらがやられてしまうが、こちらが先に撃てば敵を撃破できるという、装甲防御力は二の次でも、とにかく一矢報いることが可能な火力を備えた車両の配備が最優先とされた。その結果、型を重ねる度に逐次装甲厚が強化されてきたIII号戦車の最新型であるJ型の中期型から、ヒトラーが求めていた装甲貫徹力に優れる長砲身60口径の50mm砲、KwK 39戦車砲が搭載されるようになった。1941年12月のことである。

 KwK 39の搭載により、乗員の腕次第でかろうじてT34シリーズとは互角に戦えるようになったが、より重装甲のKVシリーズとの戦いは、かなり歩が悪かった。そして、III号戦車の主力戦車としての発達はここまでであった。なぜなら、より大きな砲の搭載を可能とする砲塔の大型化と、より強力な砲の大きな反動を受け止めるのに不可欠なターレット・リングの直径が限界に達したからである。

 かくてIII号戦車のKwK 39を搭載した最終型のM型、つまり主力戦車型の生産は1943年2月で終了した。

 しかし、75mm砲にしては反動が弱い短砲身24口径の7.5 cmKwK 37戦車砲を搭載したN型が、J型よりやや長い期間、火力支援用に造られている。同砲は、当初は支援戦車として開発されたIV号戦車の初期型に搭載されていたもので、火力強化のためIV号戦車が長砲身48口径の75mm砲を搭載するようになった結果、III号戦車が搭載可能な最大の砲として採用されたのである(2017年07月05日配信:「走・攻・防」に秀でた第二次大戦期のドイツ軍戦車:参照)。

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白石 光

しらいし ひかる

戦史研究家。1969年、東京都生まれ。戦車、航空機、艦船などの兵器をはじめ、戦術、作戦に関する造詣も深い。主な著書に『図解マスター・戦車』(学研パブリック)、『真珠湾奇襲1941.12.8』(大日本絵画)など。


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